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仙台高等裁判所 昭和34年(ラ)30号 決定

抗告人 川上栄作(仮名)

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は、抗告人は昭和三三年七月○○日亡有田友三郎、同チズの相続財産管理人に選任されたものであるが、昭和三四年五月八日原審は抗告人を解任する旨の審判をした。その理由とするところは、抗告人が山田明雄に対し、相続財産である○○郡○○町大字○○字○○番宅地二五六坪を期間五年の約で賃貸し、権利金一〇〇、〇〇〇円を受領したこと及び山田において右宅地に家屋を建築し、かつその保存登記をすることを許容するについていずれも家庭裁判所の許可を得なかつたことは、相続財産管理人としての越権行為であるということにある。しかしながら、山田は亡有田チズの生前から前記宅地を借り受け、その地上に家屋を所有して居住していたもので、抗告人において新たにこれを賃貸したものではない。抗告人は、右賃貸借の内容が不明であるのみならず、契約書も取り交わしていないので、このまま放置するにおいては後日右賃貸借に関し紛争を生ずることが必至であると考え、相続財産管理人の当然の義務として賃貸借関係を明瞭にしたまでである。また山田が前記家屋につき保存登記をすることについては、抗告人において極力拒否したのであるが、山田は抗告人の右制止をきかずして敢えてこれをしたものであつて、抗告人の責任ではない。なお、抗告人が山田から権利金一〇〇、〇〇〇円を受領したのは、相続財産の保存管理上やむなくしたもので、抗告人個人の利得を目的としたのではない。すなわち、本件相続財産管理人の改任事件の申立人たる芳村きよが前記宅地の所有権を主張し、抗告人を相手方として青森地方裁判所に所有権移転登記手続請求の訴(同裁判所昭和三二年(ワ)第二六六号)を提起したので、抗告人は応訴のやむなきに至り、その訴訟費用に充当すべく右権利金を受領したものである。相続財産管理人は民法九五三条、二八条、一〇三条によりその管理にかかる不動産を利用する権限があるのであり、そして右権限に基き同法六〇三条に定める短期賃貸借をすることができるのであつて、しかもこの場合借地法の適用が排除されるのであるから、抗告人が山田に対して前記宅地を期間五年の約で賃貸して右権利金一〇〇、〇〇〇円を受領し(当地方の慣習として不動産の賃貸借において権利金の援受が認められている)、さらに山田においてその地上の家屋につき保存登記をすることを許容したとしても、相続財産の管理行為として何ら越権ではないから家庭裁判所の許可を受ける必要はないのである。しかるにこれを越権行為なりとして抗告人を解任した原審判は不当であり、取り消さるべきものである、というにある。

しかしながら、家事審判法一四条は、家庭裁判所のした審判に対しては、最高裁判所の定めるところにより、即時抗告のみをなし得る旨規定し、これを受けた昭和二二年一二月二九日最高裁判所規則一五号家事審判規則は、審判に対し即時抗告をなし得る場合をそれぞれ個別的に明文をもつて規定している。ところで同規則一一八条は、相続人不存在の場合における相続財産管理人(民法九五二条)の相続財産の保存及び管理処分については、不在者の財産管理に関する同規則三二条を準用しており、これによれば、家庭裁判所は何時でもその選任した管理人を改任できると定めているけれども、右改任の審判に対して即時抗告をし得る旨の規定はない。

してみれば、抗告人のした本件即時抗告は、家事審判法及び同規則の認めないところで不適法であり、しかもこの欠缺は補正できないから却下すべきものである。よつて民訴法四一四条、三八三条、九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 籠倉正治 裁判官 岡本二郎 裁判官 佐藤幸太郎)

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